第58話「出会い...」



「Hello....」

以外にも電話から聞こえてきたのは女性の声だった。

「あっ、もしもし」 ちょっと驚きながら、思わず日本語が出てしまった...

「あ〜もしもし」 と、相手も日本語。

 よかった、日本語が通じる。

「もしもし、あの〜横田さんのお宅でしょうか?
 日本から今ホテルについたばかりなんですが、この電話番号がメッセージに残されていまして...。あっ、すいません、タカシといいます」

「はいはい、主人から聞いてますよ、ちょっと待っててくださいね、折り返し電話させますから。」

どうやら、確実に連絡が取れる方法として、奥様に協力を依頼されていたようだ

 

5分と経たないうちに、ホテルの電話が鳴った。

「もしもし、タカシさんですね、横田です。どうも、はじめまして...」

初めての電話だったがメールで少しやり取りしていたせいかあまり緊張せずに話ができた。
ありがたいことに、わざわざこれからホテルまで来て下さると言うのだった。

ご好意に甘えさせていただくことにし、ホテルの部屋で待つことに。

 

それから小一時間、部屋の呼び鈴が来客を継げた。

歴史を感じさせる大きな木製のドアをゆっくりと開けると、そこには二人の男性。

「どうも、どうも、わざわざお越しいただいて申し訳ありません。どうぞ、お入りください。本当にありがとうございます」

部屋の中に入ってもらい、窓際に腰掛を二つ用意し、私はベッドの端に腰掛けた。

「はじめましてタカシと申します。このたびは、変なお願いをしましてすいません。」

その二人の男性は北米報知の編集長と横田さんだった。

 

「珈琲物語を読ませていただきました。良くできていると思います。
 今、スターバックスをはじめとしてシアトル発信の商品がずいぶん日本で脚光を浴びてますよね!?

 ところが、日本の珈琲の歴史上重要な人物が実はここシアトルと深い関わりがあったんだ!...というのは、
 なかなか面白いと感じましてね。メールにも書きましたが、記事として扱わせてもらおうということになったんですよ!
 かまわないですよね......?」

お世辞でも、プロのジャーナリストから良くできていたと言われ、めっちゃうれしいタカシだった。

「もちろんです! お墓探しの広告をぜひお願いしようとシアトルまできたのですから。記事にしていただけるなんて夢のようです」

「実は、もうできてまして。今週号が明後日配布されます。こんな感じにしたんですけど....

そういって、刷り上ったばかりの新聞を渡された。

 

驚いたことに、そこには、見開き一面に大きく取り上げられたお墓探しの記事が載っていた。

詳細記事は、北米報知のページでご覧いただけます。
http://www.napost.com/hokubei/japanese/8_4_00/news.htm

 

さすがに良くまとまっている。<やっぱりプロは違うな〜>としきりに感心、感心!

本当に、私がお願いしたいことが十分に伝わっていた。

<ひょっとしたら、本当に見つかるかも...?> 胸の高まりを感じながらお礼を言った...

「ありがとうございます。感激です。こんなに大きく取り上げていただけるなんて。」

「一週間ほど様子を見ましょう。ご予定は?」

ちょうど8日後のフライト予定だった。

「帰国予定日の一日前、7日後に連絡させてください。それでいいでしょうか?」


こうして、一週間の間、待つことになった。

 

そうは言っても、じっとしていられない。 自分なりに動いてみることにした。

といっても、何ができるというわけでもなく、知り合いの日本人のお宅を訪ね、なにかヒントは無いかと聞いて回ったのだった。

しかし、思っていたとおり、何のヒントも見つからず、あっという間に一週間が過ぎていった。


その日タカシは、シアトルの隣町、アナコルテスという小さな町にいた。

一本の道沿いに、おしゃれなアンティークショップが軒を連ねる、こじんまりしたかわいい町だ。

お店の壁にいろんな壁画が書いてあり、散歩するにも飽きさせない。

不思議と落ち着くこの町が気に入って、安モーテルを拠点としていたのだった。

 

チェックアウトしてから気が付いた。

<ホテルから電話すればよかった!>

まあいいか...と、エンジンをかけ、ガソリンを給油するため近くのガソリンスタンドへ...

スタンドの公衆電話から北米報知の電話番号をダイヤルして気が付いた。

<ここは、市内じゃ〜ない!>

電話の向こうで、コンピューターによるオペレーターの早口の声が聞こえる。

「?????????」

早すぎて聞き取れない。

<何?、いくら払えって?>

どうやら、市外なので、最低料金を先に投入しろと言っているようだ。しかし、小銭が無い。

ガソリンスタンドでくずしてもらう。

受話器を上げて小銭を入れる、と..「ツーツーツー」

途中なのに切れてしまった。なぜ? もう一度。

「ツーツーツー」 

どうなってんだ! わからなかったので、ガソリンスタンドのおにいちゃんに聞いてみた。

 

どうやら、入れるのが遅すぎるらしい。他に方法は無いのかと訪ねると、それしかないと言う。

しょうがない...せえのーで、いっせいに小銭を放り込む。 今度はうまくいった。  が......

「ツーツーツー」 いや、今度は「ツーーーーーー」か?

わからない。受話器を戻す。

「えっ?」 お金が返ってこない。「うっそ〜、そんなばかな!」

 

今朝は気持ちよく晴れ渡り、結果を聞くには上天気と気分を良くして朝早くからチェックアウトしたのだった。

せっかくの気分が台無しになる。ここはぐっと我慢して、もう一度両替してもらう。

どうしても、気になったから、おにいちゃんに聞いてみた。

「どうしてお金が返ってこないの?」

「それは、僕のせいじゃないよ!」

そうそう、ここはアメリカでした。自己責任!自己責任!

 

今度は横田さんの携帯電話にかけてみた。

「よくつながりましたね〜。よかったよかった。
 実は、会社の電話がダウンして、1回線しか使えなくなってるんです。新聞社の電話がたった1回線なんてとんでもないでしょ!
 しょうがないから携帯で仕事をしてたので、ず〜と話中じゃ〜なかったですか?どうもすいません。」

なんだ、そういうことだったのか。

とすれば、一発で携帯につながった僕はラッキーじゃん! ちょっと期待が持ち上がってきた。

「それで、何か情報は入りましたか?」

「残念ながら今のところ何も入ってません。
 いや〜そんな話があったのかって、反響はあったんですけどね〜....お墓のことになっるとさっぱりです。」

 

<う〜ん残念!>

「まあ、今日一日待ってみましょう。
 それに、僕なりにいろいろと調べたこともありますから、もう一度夕方に連絡を取り合いましょう! 今日はダウンタウンですか?」


 

 

シアトルダウンタウンに入り、北はずれのモーテル「Best Western」にチェックインした。

3時ごろ、もう一度電話してみた。 今度は不思議と一発でつながった。

「すいません、やはり情報は入ってないみたいです。

でも、私なりに、それなりに古い墓地を調べたり、日系のお年よりの方々から情報を取ったりして、ここじゃ〜ないかな?っていう墓地の目処をつけていたんです。

本当は一緒に行かなっくちゃ〜いけないんですけど、トラブルがこんな状況なもので、今日はどうしても抜けられなくなっちゃいました。

ほんと申し訳ない。住所を言いますから、何とか一人で行けますか?」

 

大変な状況の中でこんなにしていただいて、申し訳ないのはこちらの方だった。

なんとしてでも見つけたい気持ちは熱いままだ。

「もちろんです。一人で探して見ますので、その墓地を教えてください。」

受話器を左の肩とあごにはさんで、ホテルのメモに走り書きした.......

スペルが違っているかも?

たったこれだけの情報で、一人で行けるのだろうか?

悩んでる暇は無かった。

<なんとかなるさ!よし、行こう!>

1階のフロントでメモ紙を見せ、地図を書いてもらうことにした...

 

「Do you know Lake View Cemetery?」

 


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目次

第59話へ

大変なトラブルの中、横田さんにはとっても良くして頂いた。

この場を借りて御礼を申し上げたい。

なんとしてでも見つけたい! 
見つからなくても、ひょっとしたらここに眠っているかも?...という墓地で
鄭永慶さんに感謝の祈りを捧げたい。

教えていただいた住所を書いたメモだけが頼りだった。

残された時間は後わずか

陽が傾きかけた午後4時少し前だった...