第5話「美しき町ハラール」



---<ラガール駅>---

「ほっ、本当にこれに乗るの...?」

いつか報道番組か映画で見たような光景を目のあたりにして、思わず口をついた。

「そうです!でもダイジョウブ。1等席をとってるよ。こっちこっち。」

アベベに手を引っぱられながら、<帰りは飛行機にしたほうが良い>と言った昨日のアベベの言葉を思い出していた。

列車の外まで人がしがみついている。
当然列車の中は...と言えば、おしくらまんじゅう状態で、それも、天井に向けて立体的なおしくらまんじゅう状態であった。

そんな状態の中で、既に寝ている豪傑もいれば、楽しそうに食事をしている家族、はたまた人を踏みつけながら列車内で物売りを始め出すオバチャンもいて、そりゃ〜もう大騒ぎ状態なのである。

しかし、みんな楽しそう。
こっちまで、何だか知らないけどワクワクしてくる。

<生きてる!>って感じがした。

アベベに手を引かれるようにして到着した1等席は、肘掛け付きのゆったりしたクッションのある座席で、快適そのものであった。(快適すぎて物足りないぐらい?)
料金は約1500円程である。おしくらまんじゅう状態の3等席はこの3分の1程で充分なのだそうだ。(じつの所、3等車両のワイワイにも興味が出てきたのだが、アベベの次の言葉でやはり1等席しかないと確信した)

「ハラールへの中継地ディレダワにつくのは、今から12時間から24時間後だそうです」

「だそうですったって、12と24じゃあ全然違うじゃ〜ないの。エ〜?。本当に着くの...?」

アベベにあたったって、早く着く訳でもないのに、そう言わずにはいられなかった。
新幹線が1分遅れても、<本日は列車が遅れまして大変ご迷惑を......>とアナウンスが流れる日本と、まだ比べてしまう自分にも腹が立っていたのかもしれない。

当然のように出発時間が来ても走り出す様子もなく、眠るのが一番と覚悟を決めた。
いつ出発したのかさえわからなかったが、予定通り?に、列車はディレダワに無事到着した。

ハラールまでは、乗り合いワゴンで約1時間。頻繁に出ているので待つことはほとんど無かった。


1時間後、私は別世界にいた。

「イスラムだ!」

石作りの家々(24k)、迷路のように入り組んだ小道を囲むように周壁がそびえ立っていた。
円形の周壁に囲まれた中心には広場があり、そこが乗り合いワゴンの乗り場であった。
その広場から周壁に向かって放射状に5本の道が伸びている。
下界との境には大きな石作りの門があり、その近辺では露店商の市場(20k)がにぎやかだった。

「ハラールはイスラムの聖地。だから何もかもジンマと違うよ。きれいな町ね!」

そう、ここは紛れもなくエチオピアの都市ハラール。同じ国なのに言葉も文化も全く違うという現実をなかなか受け止められなかった。

紅海まで200kmのここハラールは、かつてイスラム勢力にとっての西漸の重要な砦であり、エチオピア侵攻の拠点であった。またヨーロッパやアラビアとエチオピアを結ぶ交易拠点でもあったのだ。

コーヒーにとってもハラールは重要なポジションを占めている。

カファ州で発見されたアラビカ種のコーヒーをおそらく世界で初めて「栽培」するようになったのが、ここハラール地方であると言われている。15世紀頃の話しである。

17世紀には北部のタナ湖周辺でも栽培されたと伝えられ、スコットランド人の旅行者ジェームス.ブルースの「ナイル川の水源発見旅行記」によれば、18世紀後半にはコーヒーは「カファからナイル川の上手に渡り、どこでも大量に、自然に生産されていた」と報告されている。

このようにしてエチオピアで生産されたコーヒーは、ハラールへ集積され、アッサブ港から対岸のイエメンのモカやアデン等の港を経由し、アラビアへ輸出され、それがやがてトルココーヒーに、さらにはヨーロッパのコーヒー文化へと発展していったのである。

もちろん現在もハラールはコーヒーの交易拠点としての役割を果たしており、60kgはあろうかというコーヒー豆の袋をかついだ男達の姿が多く見られる。

ハンドピック女性はというと、倉庫に集められた多量の生豆の山を取り囲んでワイワイガヤガヤ一粒一粒ハンドピックで不良品を選別していた。

女性の服装からもイスラムの香りがしてきます。
ああ、もう、気分はイスラムなんです。

さあ、いよいよエチオピアを卒業して次なる国「イエメン」へと胸が高鳴ります!

おまけとして、ここハラールで体験した、エチオピアの「伝統的なコーヒーセレモニー」のお話しをすることにしましょう。興味がある人は、こちら(50k)までおいでください!

イエメンにはアジスから国際線飛行機に乗らなければなりません。
アベベの提案通り、帰りはディレダワからアジスまで飛行機にしました。
5000円程かかりはしましたが、なんとたったの45分!!
(あの列車の長旅は何だったんだろう?でも思い出に残っているのは圧倒的に列車だ〜い)


<イエメンを思うとワクワクものだけど、アベベにも一緒に来て欲しいなあ〜....なんてムリだよなあ〜?辛いよなあ〜、寂しいな〜、あ〜あ〜あ〜...なんて言ってサヨナラすりゃ〜いいんだよ〜?...>

帰りの飛行機の中、二人とも眠る訳でもなく、押し黙ったままでアジスに到着した。

何もいわなくても、通じ合えているという実感があった。だからこそ辛かった。

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