第41話 「歴史が変わる...?」



前回のあらすじ...

宇田川榕庵が日本で最初の珈琲に関する文献「哥非乙説」を著わしたことを突き止めたタカシとラッキーは、榕庵がいつ、どこで、どのようにして珈琲を飲んだのか、さらに調査を続けた。

そしてとうとうオランダ人ツンベルグが残した、「ツンベルグ江戸参府紀行」の中に「宇田川」の文字を見つけたのだが、その解説には、「宇田川とは、玄真あるいは榕庵か?」とあったのだった。

当然、岡山県人で最初に珈琲を飲んだのが榕庵だと決め付けていたタカシとラッキーは、榕庵の養父である宇田川玄真についても調べる必要があることに、気付くことになったのだった.....

宇田川榕庵
宇田川榕庵
1798〜1846

宇田川玄真
宇田川玄真
1769〜1834

宇田川玄随
宇田川玄随
1755〜1797

「洋学史辞典」日蘭学会編、 雄松堂出版より



「また、津山洋学資料館へ宇田川玄真を調べにいかなくっちゃ〜だめなのかな〜?」

せっかく榕庵に照準をあてて調べてきたのに振り出しに戻るような気がして、少々投げやりになったタカシが言った。

「けど、確かに榕庵より先に生まれて、洋学を先に学んだ玄真さんが、榕庵より先に珈琲を飲んだ可能性はかなり高いと思いまっせ〜!」

「わかってるんだけどネ〜... まあ、いいか! 気分を変えて、最初から調べますか!!
とりあえず、玄真を調べるとすると、洋学資料館で教えてもらった、洋学史事典で玄真の所をひいてみることからかな〜? どう思うラッキー...?」

「.................................」

「どうしたの、ラッキー?」

「これ見てみ! これ!」

ラッキーが「これ」といったのは、津山洋学資料館で、帰り際に「念のために...」と、コピーしていただいた榕庵に関する洋学史事典のコピー2枚の1枚目であった。

「ほら、榕庵の事が書いてあるこの80ページの上の方に宇田川玄随がのってるやろ...。
その前に途中で切れてるけど、これは玄真のことやで!」

榕庵に関する記述は80ページの最後の方から81ページにかけて書かれていたため、榕庵の前に記載されていたのが偶然というか、あいうえお順なので当然というべきか、玄随、玄真に関する部分もコピーに載っていたのだった。

「ほんまや! 榕庵の事ばかり考えてたから気付かなかったね。
 ラッキー! 見て見て! 玄真の江戸参府について書いてあるよ!」

そこには、次のように記述されていた。

文化11年(1914年)には、江戸参府のオランダ商館長ヅーフを  
大槻玄沢、
養子榕庵らと訪問し、薬物などについて質疑を行なった。

「な〜んだ、こんなところにちゃんと書いてあるなんて...
 ということは、榕庵が1816年に哥非乙説を書くきっかけになった珈琲体験は、こうして玄真に連れて行ってもらったときからのことなんだ!
 一緒に行って榕庵だけが珈琲を飲むということは考えにくいから、やっぱり二人とも同じ日に珈琲初体験をしたんだと思うな!

 親子でドキドキしながら、コーヒーを飲んだのかな〜?
 ネエ、ラッキー... ここに書かれている商館長ズーフっていう人の事を調べてみようか?」

「......................」

タカシの問いかけに返事もせずに、ラッキーの目は先ほどの資料の続きを追っていた.....

「玄随はんは榕庵のおじいちゃんやから、珈琲とは関係ないと思ってましたけど、玄真さんも玄随さんの養子やから年があんまり離れてませんねや! 玄随さんと玄真さんはたったの14才しか違いませんがな!

 で〜....何が言いたいのかというとやな〜.............やった! あったで! 
 タカシやっぱりありましたで!

 ほら、ここんとこを読んでみ!」

そう言って、玄随の説明が載っている中段の後ろのほうをラッキーが指し示した方を見ると...

寛政4年(1794年)、4月、オランダ商館長ヘイスベルト・ヘムミイが江戸参府の折、玄随は桂川甫周の仲介で、大槻玄沢、森島中良らと共に随行の外科医ハルトケンを宿舎長崎屋に訪問し質疑を行なった。
これを記したものが『西賓対語』である。

なんと、玄随もオランダ人と接触していた!

岡山県での洋学に関する第一人者の玄随。

もし、玄随が珈琲を江戸長崎屋で飲んでいたら、まちがいなく岡山県人で最初の珈琲飲みである。

そして、もし、珈琲に関して何らかの感想をこの時、1794年に文章で残していたら、日本人最初の珈琲に対する感想文として今までの通説となっている、蜀山人が1804年に残した「焦げ臭くて味わえたものではない...」というものより、古い事実ということになるのだ。

ひょっとすると歴史が変わる...?

そんなたいそうな事ではないのだが、気分はもう大歴史学者...の一人と一匹だった!!

「こうなりゃ〜何としても、『西賓対語』という資料を捜すしかないね!
 ラッキーの頭脳には『西賓対語』のことは、何か入ってないかい...?」

「すんまへん、何にも資料データは入ってないわ...」

「そっか〜...じゃあ、まずは、津山洋学資料館に『西賓対語』について問い合わせて見るよ...!」


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さてさて、コーヒーに関する日本人としての最初の体験記の 
新たなる事実の発見はあるのでしょうか? 次回のお楽しみ!