第7話「モカ・マタリの国、イエメン到着」



アラビアと聞いて何を思い浮かべるだろう?

幼い頃に読んだアラビアンナイトの世界や、砂漠の中のオアシスだろうか?

そんな想像しかできなかった私は、イエメンの首都サナアの旧市外地を見て絶句した。

そのあまりの美しさに圧倒され、どうしてもその感動を誰かに伝えたくなる衝動にかられた。

コーヒーに関する事のみでイエメンを語るのはあまりにももったいないのです。
イエメンでの珈琲物語は、奥深いイエメンの魅力紹介と共に書き進めていくことにします。

イエメンの位置さて、イエメンときいて、はたして何人の日本人がその正確な所在地を説明できるであろうか?.....タカシはもちろん知らなかった。

イエメンは日本と同じアジアの一国である。アラビア半島の南のはずれに位置するこの国は我々にとってあまり馴染みの無い国でもある。

しかし、「モカ」と言うコーヒーの名前を聞いたことがある人は数多いだろう。ここイエメンこそ「モカ・マタリの国」なのである。

また、イエメンこそは世界で初めて「コーヒーを飲む」という文化が生まれた国なのだ。
コーヒーの歴史上極めて重要なポジションを占める国なのである。


第2話でふれたイスラムの修行僧の眠気防止の妙薬として飲まれるようになったのでしたネ。

「モカマタリ」の「モカ」とは、珈琲貿易で栄えたイエメンの港町の名前であり、「マタリ」とはイエメンの「バニーマタル地方」からきた名前である。「バニーマタル」というのはアラビア語で「雨の子孫達」という意味だ。この名の通りバニーマタル地方は雨が降って適度の湿気があり、海抜も2000mぐらいでコーヒーの生育に適している。
このバニーマタル地方で採れるコーヒー豆をモカ港から積み出したものが「モカ・マタリ」となる訳である。

イエメンを説明するときに良く使われるもう一つの地図がある。拡大図はこちら。

アラビア半島にある国のほとんどは砂漠に属するが、イエメンはめずらしくバラエティーに富んだ地形を持ち、さまざまな気候が見られる。その地形を示す断面図である。
いかに変化に富んだ地形であるか、解りやすい。
イエメンは砂漠だけではなく、山岳地帯を持つ国なのである。

幸福のアラビア。緑のアラビア。シバ王国。海のシルクロードの要地。世界最古の現存する都市。世界最古の摩天楼。イエメンを語る際によく使われる表現である。

イエメンがいかに魅力的な所であるか、ムハンマドとの珍道中の始まりです。


サナア国際空港に到着した時にはもう日がとっぷりと暮れていた。

タラップを降りバスでターミナルまで行き、順調に入国手続きが終了し

<ムハンマドはちゃんと来てくれているだろうか...?>
 

などと思いながら、出てくる荷物を待っていた。

グルグル回る荷物テーブルをじっと見ていてあることに気が付いた。

<さっきから、同じ荷物がグルグル回っている...?!>

そして、回転していた荷物テーブルは今にも壊れそうな音を立て、やがて止まってしまった。

「私の荷物が出てこないんですが...。どうなっていますか?」

「荷物室がいっぱいだったので、積み込めなかった。あなたの荷物はちゃんとアジスに保管してある。」

「なんで勝手にそんな事をするのか?」

「あなたはいいほうだ。あの女性の荷物はどこにあるのかさえまったくわからないのだ。あなたのは明日の同じ便で届くので電話で確認してから取りに来ればいい。」

荷物がなくなったと言われた女性はさんざんやりあった後らしく、私のほうに向かって笑いながら首をすくめて見せた。良くあることといえばそれまでなのだが、やはり最初からケチをつけられたようで不安がよぎった。結果的にこのトラブルは私に幸運をもたらしてくれたのだが、このときは知る由もなかった。

イエメンは私が思っていた以上に観光国らしく、名前を書いたプラカードを持った出迎えが結構たくさん待っていた。その中に「TAKASHI」と書いたカードを持ってたたずむムハマンドを見つけるのにたいした時間はかからなかった。残念ながら当然女性ではなかった。しかし、いかにもアラビアといった雰囲気を醸し出す独特の衣装に身を包んだ人々の中に、自分を待っていてくれた人がいるというのはなんともうれしいものだった。

「TAKASHIです。ムハンマドさんですか?」

ちょっと気難しそうなその人に、笑顔で話しかけて見た。

「そうです。」そう言って私をじろっと見て「荷物は?」と聞いてきた。

挨拶もそっちのけで、今起こった頭にきたいきさつを説明しかけると、無愛想に「じゃあ行きましょう。」とあっさり話しの腰を折られてしまった。

よくあることなのだろうか?荷物の事は大して気にかける様子もなく、スタスタと歩いて行くムハンマドの後をついて空港を出た。

「夜遅いのでタクシーでホテルまで行きます。いいですか?」

いいも悪いもほとんど予備知識なしで入国した私はムハンマドに任せるしかなかった。

ムハンマドと同じ格好をしたタクシーの運ちゃん達がたむろしており、私を見つけて近づいてきた。なにやらアラビア語で交渉し、ムハンマドは私をタクシーに誘導してくれた。
タクシーに乗り込んで改めて挨拶となった。

「タカシです。宜しくお願いします。」

「ムハンマドです。日本ではマホメットの方がポピュラーみたいですね?同じなんですよ。
乗り合いタクシーで市内まで行けば安いのですが、夜遅いのでタクシーにしました。
貴方はコーヒーゆかりの地を訪ねたいそうですね?私に任せて下さい。
明日からジープをチャーターして私が運転します。日本の車です!」

決して人は悪くないのだろう。愛想がよい訳ではないが、嫌われている訳でもなさそうだった。
今から考えるとイエメンの人々は皆かなりの人見知りで警戒心が強いが、一端打ち解けると非常に親切でやさしい国民性だった様に思う。
ムハンマドも例外ではなかった。

首都といっても先進国の様なネオンに彩られた夜景などなく、どんなところを走っているのか、まったくわからなかった。

20分程走っただろうか
「さあ、ホテルに着きました。タクシー代は500リヤルです。」

「えっ?まだ両替なんてしてないよ。米ドルではダメ?
だって空港の両替カウンターには誰もいなかったし...。」

運転手と何やら交渉していたムハンマドの言う通り5ドルを払って事なきを得た。
(1ドルは約135リヤル前後。1円=1YR(リヤル)と考えてよさそうだ。
その後、銀行ではなく市場にたくさんある両替商で両替は簡単にできた。銀行よりもレートが良かった。)

「このホテルは外国人に人気があるイエメン式のホテルです。ゆっくりお休みください。明日朝9時に迎えに来ます。早起きしたら、屋上に登ってみるといいですよ。では、おやすみなさい。」

ホテルの名前は「Taj-Talha-Hotel」タージ・タルハ・ホテル。

ムハンマドに言われたように早起きして屋上に登って、一瞬にして私はイエメンのとりこになった。

 

第8話は美しいイエメンの写真満載でお送りします。
お楽しみに!