第38話「津山洋学資料館 その3」


「すいません。うちには『哥非乙説』の原著もコピーも無いようです。
 一応『哥非乙説』に関する洋学史辞典の記述部分をコピーしましたので参考にしてください。」

と、係の女性...

<残念! どうしても見たかったのに... どこに行けば見れるんだろう...?>
そんな気持ちで、渡されたコピーに目を通して見た。

---コッヒイせつ 哥非乙説---

宇田川榕庵による稿本。一巻一冊。成稿年は文化13年(1816年)である。
水田昌次郎・池田哲朗編「宇田川榕庵稿本目録」(蘭学資料研究会研究報告79号付録、1961年)に記載されているが、現在、稿本の所在は
不明。 (日蘭学会編 洋学史辞典 雄松堂出版)

「現在、稿本の所在は不明か...? 残念だなあ〜」

「わかんないんじゃ〜しょーがないね。
 でも、文化13年(1816年)に榕庵が書いたことが確認できたやんか!
 まあ、だいたいの内容は厚生新編に書いてあったことやろと思いますしな...?!
 わてのメモリーにある伊藤博先生のコーヒー博物誌による見解をちょっと付け加えときますわ。

 それによるとやなー、

大槻玄沢が厚生新編の為にコーヒーの図解を必要とした際         
榕庵が
『哥非乙図』としてコーヒーの樹・葉・果実の3枚をてがけた    
そして、1816年厚生新編の末尾に挿絵についての植物学的な解説を書き添え
それを
『哥非乙説』と題した.....                    

 .....というこっちゃ!」 

「コラムに書いてあった厚生新編のことも哥非乙説のこともだいたい事実確認ができたから、次に調べないといけないことは....、

 * 江戸参府をしていたオランダ人一行は本当にコーヒーを持っていたのか?
 * それを長崎屋という宿で飲んでいたのか? 
 * さらにはそのコーヒーを、訪ねていった榕庵にふるまったのか?

 こんなとこだよね〜ラッキー?」

そうはいっても、岡山県の洋学者宇田川榕庵が残したコーヒーに関する資料は今見てきたぐらいで、それ以上の情報を獲得出来る資料は簡単には見つかりそうもなかった。

「榕庵の哥非乙説の背景となった、オランダ人とのコーヒーに関するかかわりなんかを記述した資料などはないでしょうか?」

だめもとで、もう一度係の女性に聞いて見たのだが...

「そうですねぇ〜...コーヒーに関する資料として登録されているわけではありませんので、これ以上は分かりかねます。
 大変でしょうけど、コーヒーという文字を目当てに、ここにある資料を片っ端から順に捜すしか無いと思います...。どんな文字でコーヒーを表現していたのかは、また別の問題ですけど...?」

「...................そうですよね〜.................トホホ...  どうも、ありがとうございました。」

「念のために、宇田川榕庵に関する洋学辞典のコピーをとっておきましたのでお持ちください。」

そう言って、2枚のコピーを手渡して下さった。

ここでも本当に親切にしていただいた。
この場を借りてお礼を言いたい。

しかし、どうやれば、調べられるのだろう...?
少々途方に暮れながら、津山を後にした。


「洋学者の資料にないんやったら、オランダ人の資料から探ったらええやんか!」

 車に乗り込んですぐのラッキーからの提案だった。

「と言うと...?」

「榕庵が、オランダ人つまりカピタン一行の江戸参府を訪ねている事は確かなんやろ...?」

「そうだよ!
 さっき見せてもらった資料に確かに<宿舎の長崎屋に訪ねている...>と、書いてあったよ。」

「せやったら、そこに居合わせたオランダ人が書き残している資料を調べたらええやんか!」

「そんな記録が残ってるの...?」

「はいな!
 まあ、タカシは覚えてないやろうけど、日本で最初にコーヒーを飲んだ人の事に関する歴史的資料として、<ツンベルグ江戸参府紀行>の説明をしたことがあったやろ! 
(第25話でしたネ)
<2〜3の通詞が珈琲の味を知っている...>というくだりや!

 同じように、長崎にきていた商館長、つまりカピタンが江戸の将軍に接見しにいった記録として、いくつかの江戸参府紀行が残ってますねや!

 奥山儀八郎先生の「コーヒーの歴史」には、この4つの江戸参府紀行のことがのってませ!」

『ケンプェル江戸参府紀行』(元禄3年・1690年)
『ツンベルク江戸参府紀行』(安永5年・1776年)
『フィッセル江戸参府紀行』(文政5年・1822年)
『シーボルト江戸参府紀行』(文政9年・1826年)

「なるほど〜、さすがやねえ〜ラッキー。頼りになるわ!!
 で〜、榕庵の事はどれに書いてあるの...?」

「残念ながら、儀八郎先生の本には江戸参府の榕庵の事にはなにも触れてませんな...」

「ええ〜?」

「コーヒーの事に関してはかなりの部分を抜き出して記述されてますけど、江戸参府における榕庵の事は何にも書かれてませんわ。」

「じゃ〜どうするの?」

「自分で調べるんですがな!」

「どうやって?」

「江戸参府の資料を隅から隅まで調べたらよろしい!
 文献がどこにあるかは、今からインターネットを使ってすぐに調べたげるさかい、まっとき!」

そう言うとラッキーは、インターネットにアクセスし文献のありかを調べ始めた。

「まあ、こういったマニアックな文献はやっぱ大学の図書館でっしゃろな〜...」

 Webcat 言う、全国の大学の蔵書をまたたくまに検索できる素晴しいホームページが存在しており、ラッキーはあっという間に、江戸参府だけでなく様々なキーワードで検索し、複数のヒントになりそうな文献をリストアップしてくれた。(ちなみに、Webcat のURLは http://webcat.nacsis.ac.jp/ です)

「なんと、タカシ! 4冊ともタカシの母校の岡山大学にありまっせ!
 他にもいろいろと参考になりそうな本までリストアップできましたで〜!
 さあ、岡大へLet's go や!」

 


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目次

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榕庵は本当に江戸、長崎屋でコーヒーを飲んだのか?
真相解明のため岡山大学図書館へ向かったタカシとラッキー
果たして真実は明らかになるのでしょうか?